7月4日(水)~6日(金)の3日間に渡り東京ビッグサイトで開催されたDESIGN TOKYO(東京デザイン展)http://www.designtokyo.jp/ja/Home/ から,ドイツAuluxe社のオーディオをリポート。
「DESIGN」の名を冠する展示会だけあって,会場内に入れば美しいデザインのプロダクトに魅了される。プロダクト・デザインにおける「機能とデザインの調和」は消費社会の誕生ともに,その問題が大衆レベルに降りてきたといってよい(※1)。「機能的なものは美しい」というのは近代建築、近代デザインの大きな潮流であったとされるが,はたしてそうだろうか。個人的には建築家・丹下健三の金言「美しいもののみ機能的である」の方がしっくりくる。なにもA≠BであってもB=Aと いうような複雑な論理学の問題を問いたいのではない。もっと単純に主体が何であるかが問題で,「美しいもの」は求められる機能の一部だということが言いたいだけだ。
さて,昨今の工業デザインは美と機能の問題にどのような答えを出しているのだろうか。
(※1 同時にボードリヤールがその著書『消費社会の神話と構造』で鋭く指摘しているように,モノが包含する機能性だけでなく,見た目の美しさ≒デザインそのものが消費の対象になるというのが現代社会に特徴的なありようである点も忘れてはならない。)
今回,オーディオに注目した理由は,(その多くは)四角い物体の中でデザインと機能の華麗だけれど激しいせめぎ合いが行われている場所であり,デザインー機能問題を語る時に適した対象だと思われるからである。
というのも,オーディオ製品はたとえライトなユーザーであっても音楽を聴く以上はいい音で楽しみたいと願う一方で,デザインにこだわりすぎるといい音を失うという二律背反的な問題を抱えていたように思う。素人が聞きかじった知識ではあるけれども,よい音を出すためにはそれなりの大きさと重さが必要だといわれているからだ。
さらに,オーディオは完全な嗜好品とは言いがたく,各人に程度の差こそあってもーー音楽のない日常を想像しがたいようにーーわれわれの日常に欠かせないモノだということも忘れてはならない。もっとも,たとえばかわいくデコレーションされたスマートフォンケースにはほれぼれするし,筆者もしっかりデコった好みのケースで武装している。けれども,やはり生活密着度という部分でオーディオほどではないし,デザインだけを徹底的に追求していけばいい種類のモノとは異なる。身近な家電で機能は気になるけれど,いやむしろ身近な家電だからこそ,デザインにもこだわりたいというハードな要望と戦っているのが最近のオーディオの開発関係者ではないだろうか。
Auluxeのオーディオは「デジタル・アンプ」と呼ばれるものを搭載している。わたし自身もデジタル・アンプの自作機のようなものを譲り受けて愛用しているが,これが驚くほど小さい。置き方や見た目にこだわらなければ,高さ5cm,幅10㎝,奥行き10㎝の空間にすっぽり収まってしまう。しかもその小ささからは想像できないようなすばらしい音が出るのだから,初めて手にした時の興奮は未だに忘れられない。
このアンプ部分の小ささがオーディオのデザインにメルクマール的転換を起こしたというと大げさかもしれないが,最近のとくに普及価格帯のi-podをつなげて聴くような種類の小型・薄型オーディオでは好んで採用される傾向にあるのは間違いないようだ。
ここまでは素人の印象論だと思ってもらっていい。オーディオについてこれ以上のことを私が語るには知識が許さないようなので,次回はオーディオに詳しい著者にAuluxeのオーディオについて「簡単に」(※2)解説してもらうことにする。
※2 「簡単」や「普通」といった言葉の含意が人によってびっくりするほど異なることに驚かないこと
取材協力:株式会社Cut&Paste http://www.cut-and-paste.jp/