一般に女性雑誌における衣服やバッグなどの広告は洗練されたコピーをしたがえ,見る者に解釈の余地を与えてイメージを膨らませるることで訴求するものだと思う。
し かしながら,同じ女性をターゲットにしているにもかかわらず美容雑誌のそれは根本的に異なるといっていい。男性誌顔負けのオタクでマニアな情報に溢れてい るのである。それで,キャプションがただ「おまけ」で付記されているだけなら別に問題にならないんだけれども,美容マニアは細かいキャプションこそが大事 なのであり,見逃さずにじっくり熟読しているのだ。以下に具体的なサンプルを示したので参照されたい。
LANCÔME ヴィジョネア(美容液)の場合
[先鋭分子LR2412の独自設計]
その手応え。先進の美容対策を見合わせるほど。*1先鋭分子[LR 2412]*2の独自設計で、その限界まで深く、自ら浸透。*3
完璧を乱す小ジワ、毛穴、キメの粗さ―見えるからこそ、ゆずれない肌表面。つるんとした手触り。なめらかに、ふっくらと肌を満たす。
肌に触れた瞬間に広がる、みずみずしいテクスチャー。
*1 3人に2人が先進の美容対策の見合わせを考慮。ランコム調べ。個人差があります
*2 ランコムが開発した新次元エイジングケア(年齢に応じたスキンケア)有用成分。テトラヒドロジャスモン酸、テトラヒドロジャスモン酸Na。整肌成分
*3 角質層まで
YSL FOREVER YOUTH LIBERATOR(美容液)の場合
[ノーベル賞7回受賞のグリカン科学]
グリカンの減少に着目した新エイジングケア成分
YSL・SKINSCIENCEは、若々しい美しさと関係する3種のグリカン*1を選定。イヴ・サンローラン史上初のエイジングケア*3複合成分「グリカ ンアクティブ*2」を独自に開発しました。「グリカンアクティブ*2」は、肌本来の機能をサポートすることで、停滞していた美しさを解放します。
*1 皮膚生体に存在する単糖を含む糖質および糖鎖のこと
*2 整肌成分:カラギーナン・ラムノース・ヒドロキシプロピルテトラヒドロピラントリオール
*3 年齢相応による保湿によるスキンケア
LR2412やグリカンと言われてもほとんどの人は何のこ となのかさっぱりわからないし、最先端の科学なのであれば、もしかしたらその世界の専門家ですらわかる人は少ないのかもしれない。結局のところ、ノーベル 賞云々の文言に代表されるように、権威に語らせ、権威を信じるしかないということになるのだけれど、日本の美容フリークたちはこういう広告にみられる最新 の科学云々の売り文句に弱いし大好き。これは直接肌に関係する基礎化粧の分野に顕著で、単純なイメージだけでは売れない。陶器のような肌を手に入れるため には、命がけなのである。
こういううんちく語りは百貨店等の販売の現場でも行われていて、細胞が云々とかDNAがどうたらといったセールス トークはしばしば聞かれる。ややステレオタイプかもしれないが、男にはスペックやオタクな知識でアピールして女にはイメージでアピールするというセールス の違いがあるといわれるように、最初はぼくが男性だからなのかと思っていたけれど、どうやら違うことが後にわかった。客が女であっても、売り場では専門用 語が飛び交っているのである。