わが国のスニーカーの歴史を,ファッション的な視座から振り返ろうとすれば,やはり1990年代に起きたハイテクスニーカーブームが画期になるのだろう。
興味深いのは,当時のブームを牽引したのがナイキやリーボックといった外資系のメーカーであったことと,本格的なスポーツシーンに耐えうる文字通り「ハイテク」な設計であったことである。
一方,当時の国内メーカーはブームに乗ることはなかったし,そもそも乗る気などなかったのかもしれないけれども,けっしてテクノロジーで劣っていたわけではなくて,むしろその性能は世界をリードしていたし,国内のスポーツ界を席巻していたのは国内のメーカーであった。
国内メーカーといっても,その実ミズノとアシックスの二社が中心(1)だったといっても過言ではなく,「速く走ること」を純粋に競う陸上競技では長距離走者を中心にアシックスが優勢であったし,ミズノもそれなりに人気があった。
ようするに,当時のスニーカーの流行には,ファッションの外資系メーカーと競技者に好まれる国内メーカーという二つの流れがあったのである。
別の言い方をすれば国内の競技者の間で上記の外資系メーカーが採用されることは,バスケットボールにおけるナイキのエアジョーダンのような例外はあるものの,ほとんどなかったといえるし,たんに「ハイテク」なだけではスニーカーがファッションアイテムにはなりえなかったのである。
―最近のスニーカー事情は?
最近の事情はよく知らないが,興味深いデータを載せているブログ記事を見つけたので,引用したい。
NYCマラソン2013で速いランナー100人が履いたシューズ
SnekerReportがNYCMトップ100人のシューズを全て写真付きで紹介しています(※女子のほうが30分先にスタートしてるのでジェプトゥーから始まってます)。
せっかく貴重なデータが公開されたので、メーカー別の分布を調べてみたところ、次のようになっていました。
アディダス 26人
ナイキ 24人
ブルックス 12人
アシックス 10人
ニューバランス 9人
サッカニー 8人
ミズノ 5人
プーマ 2人
ディアドラ 2人
スケッチャーズ 1人
ニュートン 1人http://www.sc-runner.com/2013/11/nyc-marathon-2013-elite-shoes.html
上のブログ主が参照したサイト(英語)
http://sneakerreport.com/news/first-100-shoes-cross-nyc-marathon-finish-line/
場所がアメリカのニューヨークだしナイキが独走しているんだろうと思って見てみたら,アディダスが一位。どうやら陸上長距離界はadidasの時代らしい(2)。
時代は変わったのだなあと言おうとしたが,そもそも諸外国における昨今のスニーカーのシェアなんて知らないからいい加減なことは言えない。ちなみに,上記の英語サイトは足元の写真付きで紹介してくれている(スニーカーレポートってすごいドメイン)。最近のランニングシューズはずいぶんカラフルになったと感じる。
アディダスの開発部門にはかつてアシックスで靴職人だった人がいるようだ。なるほど,躍進の理由がわかる気がする。
美ジョガーと呼ばれる女性たちの足元を観察していても,ナイキやリーボック,アディダスが多いような気がする。競技向けであってもファッション性が重要視される近年のスニーカーであるが,今後の国内メーカーの頑張りに期待したいものだ。
(1)アシックスが今も昔も国内のアスリートに支持されるのは,歴史と多くのメダリストを輩出してきた実績があるからそれほど驚かない。ミズノも,カールルイスがミズノのスパイクを使用していたのは当時から有名だったし,陸上競技に絶大な影響を及ぼしてシェアを拡大している最中であった。
ミズノのスパイクで9秒86を出したのが1991年,彼は1996年まで現役を続けたからハイテクスニーカーブームと少し時期が重なることになる。引退後の影響力も考慮すれば同時期といってもいいのかもしれないが,お洒落アイテムとしては見向きもされなかったのが悲しい。
(2)でも,こういうのは結局のところ,靴がどの程度パフォーマンスに影響しているのかを数値で示せないから,よくわからない。ものすごく重要なのは感覚的にわかるけれど。ウサイン・ボルト(プーマのスパイクを使用)なんかを見ていると,どこのメーカーのシューズを履いても,多少記録には影響は出るかもしれな いが,とりあえず一位になれる速さは保てる気がする。
カールルイスは「君,足遅いから要らない」とナイキから契約を切られた経緯がある。その後アシックスと交渉を試みるも「ナイキ成分が多めに入ってるからちょっと無理」だったようで,最終的にミズノと契約したらしい。